ザ・童貞ズからオレンジスパイニクラブへ。前身バンドから数えて10年にわたり活動を続けてきたバンドの道のりは決して間違っていなかった。オレスパが3月23日にリリースする1stデジタルEP『hodgepodge』は、それを強く肯定するような1枚になった。今作には、バンドが初めてドラマ&企業プロジェクトに書き下した「7997」と「リルメラン」といった最新曲に加えて、廃盤になったインディーズ時代の作品から、「急ショック死寸前」「まいでぃあ」「みょーじ」「パープリン」「モザイク」の再録バージョンが収録される。以下のインタビューでは、特に過去曲にスポットをあて、当時の制作エピソードを振り返ってもらった。パンクロッカーとしての意思を胸に抱き、紆余曲折をしながら大切な日々を積み重ねてきたオレンジスパイニクラブの黎明期の想いが伝わればと思う。
――今回、インディーズ時代の楽曲を再録したEPを作ろうと思った経緯から教えてください。
スズキユウスケ(Vo/Gt):「急ショック死寸前」とか「まいでぃあ」「みょーじ」を収録していたアルバムが廃盤になってしまったので。ずっと再録するタイミングを窺ってたんです。
――収録されてる楽曲はいまでもライブでよく演奏してますもんね。
ユウスケ:そうですね。今回はできるだけライブのまんま入れるっていうものにしたかったので、レコーディングはめちゃめちゃ早かったんですよ。
――特に「急ショック死寸前」はライブ感が色濃く表れてます。
ユウスケ:あれは一発録りなんです。ギターソロだけは別録りなんですけど。それ以外はせーので録ってますね。廃盤になったやつよりも、いまのほうがテンポが速いし、がなってるし、勢いが増してるんですよ。よりパンキッシュなものになってます。これは録っててもいちばん楽しかったです。(自分たちは)パンクロッカーなんだなって改めて思いました。
ゆっきー(Ba):本当にライブのテンション感のまんまで、クリック(メトロノームの音)も聞いてないんですよ。昔のレコーディングでは、何をしたらどういうベースの音が出るかも理解できなかったから、今回はより自分が出したい音にできたかなっていうのはありますね。
ゆりと(Dr):これは体力を使う曲なんですよ。だから一発入魂みたいな感じで叩いてたんですけど、最終的に5、6回やって……。
ユウスケ:一発入魂じゃないじゃん(笑)。
ゆりと:でも楽しかったです(笑)。僕は曲によって感情を作り込んでいきたいタイプなんですけど、「急ショック」は振り切れるだけ振り切ればいいので。バンと気合いを入れて、どんどん服を脱いでいく。最終的に全裸でやるぐらいのテンションでした。
――実際に全裸になったわけじゃなく?
ゆりと:あ、パンイチぐらいまではいきました。あと1回やり直してたら全裸でしたね。
全員:あははは!
――「急ショック」を作ったときのことは覚えてますか? 前身バンドの童貞ズ名義のアルバム『under20』の収録曲で、2017年のリリースでしたけども。
ナオト(Gt):この曲を作ったときのことはめっちゃ覚えてます。高1か高2ぐらいのときに、同級生の女の子が死んじゃって。それで作ったわけじゃないんですけど、ふと家にいたときに給食の匂いがしたんです。深い意味はないんですよ。追悼の意とかでもないんです。ただ、 <あの娘の趣味は何?>とかは、その子のことを考えて書いたんです。
――この曲からは怒りを感じたんですけど、そのあたりはどうですか?
ナオト:すごく、むしゃくしゃしてたんですよね。まあ、10代のときだし。17歳とか高3ぐらいで作った曲なので。リアル高校生ソングですね。
――当時は、バンドの方向性として、パンクバンドを目指していたんですか?
ユウスケ:僕ら、いまでもパンクバンドのつもりなんですけど……(笑)。
――ああ、なるほど。
ユウスケ:まあ、当時はいまよりもっとパンクでしたね。
――その頃のバンドの原動力は何だったと思います?
ナオト:俺は見返したいっていうか、そういうのが強かったかな。
――2曲目の「まいでぃあ」は、『under20』から2年後の『敏感少女』(2019年)の収録曲になります。オレンジスパイに名義でリリースされたラブソングですね。
ユウスケ:オレスパになって俺が初めて作った曲なんですよ。すでに(ナオトが書いた)「キンモクセイ」と「敏感少女」っていう強力な2曲があって、それだけで勝負できるだろうっていうのはあったんですけど、俺も1曲ぐらい作ろうかなっていう気楽な感じで作った曲でした。
――ちょっと嫉妬深くて、鈍感な「僕」が主人公ですね。
ユウスケ:これは西野カナさんの「トリセツ」みたいな曲を作りたくて。
――なるほど(笑)。
ユウスケ:カップルの曲なんですけど、ワガママな彼氏を主役にした曲を作りたかったんです。童貞ズっぽい雰囲気の曲を作りたかったのもあったんですよね。
ゆりと:この曲は、僕が一回脱退して戻ってきたときに、「スタジオに入ろうぜ」って言って作った曲だったんですよ。僕は1回抜けたタイミングで、童貞ズっぽいパンクみたいなものはいったん聴かなくなったんです。ドラムのフレーズもそっちに寄せないようにしようかなって、ファンクとかブラックミュージックを聴くようになって。僕なりに変えてみようとは思ってましたね。
――当時、童貞ズとオレスパっていうのは4人のなかで明確に違うものとして位置つけてたんですか? ストレートなパンクからメロディアスな路線にいくというか。
ユウスケ:うーん……俺はそうは思ってなかったです。やってることは同じですから。オレスパになったからと言って、ジャンルを完全に変えてるつもりはなかったんですね。あくまで名前が変わっただけで。ナオトの曲もそこまで変わってないと思ったし。
――ナオトくんはどう?
ナオト:僕は作ってる曲は全然違うと思ってましたね。(『敏感少女』に収録されている)「キンモクセイ」と「敏感少女」ができたときに、これで勝負していきたいってなんとなく思ってたんです。その2曲のなかで「まいでぃあ」は、僕らが変わってないよって思わせる曲ではあったんですよ。パンクのエッセンスが強く出てるので。さすがに「敏感少女」とか「キンモクセイ」を出す時期は、自分らでも変わるのが怖かったので。そのなかに「まいでぃあ」がある安心感がありましたね。
――ゆっきーくんはどうですか? 当時の心境としては?
ゆっきー:僕は何も考えてなかったのかな。さっきのバンドを続ける原動力で言うと、ふつうにサラリーマンとして働きたくないから、バンドをやるって言い訳をしてたところがあって。その延長線上で売れればいいなぐらいの気持ちでやってたような気はしますね。
――その後、バンドをやっていく覚悟が決まったタイミングはいつ訪れるんですか?
ゆっきー:明確な時期はないんですけど。それこそナオトとユウスケさんの曲がいいなってずっと思ってやっていたので。そこですかね。そこに乗っかっとくしかない、みたいな。
ユウスケ:乗った船からは降りられない、みたいなね(笑)。
――そういうものですよね。「みょーじ」と「パープリン」と「モザイク」は、『敏感少女』と同じく2019年にリリースされたシングル『モザイク』の収録曲ですね。
ナオト:まず「みょーじ」は童貞ズのときに作った曲ですね。ただ、ライブでやりはじめた頃の記憶がないんですよ。
ゆっきー:全然覚えてないね(笑)。
ナオト:ゆりとが抜けてるタイミングだっけ?
ゆりと:あ、そう……かもしれないですね。Twitterで前のドラムの人が叩いてる動画が上がってたので。僕がいないときです。
ゆっきー:19、20歳ぐらいか。
ナオト:時期で言うと、東京でライブをやりはじめたときなのかな。いちばんお金がないとき。
ユウスケ:基本俺らはお金がないよね(笑)。ゆりとがいない時期がいちばん最悪で本当にトラウマなんですよ。
ナオト:そういうときに作った曲が、いまは(朝の情報番組)『スッキリ』のエンディングに起用されて、聴いてもらえるきっかけが多くなったのは感慨深いなと思いますね。
――これは元カノが結婚して別の名字になるっていう曲ですよね。
ナオト:作ったときのことは覚えてないんですけど、作った2週間後ぐらいに当時つきあっていた彼女にフラれて。(彼女が)すぐに結婚したんですよ。だから、それで作ったみたいに言われて。
ユウスケ:絶対それで作ったでしょ。
ナオト:違う違う違う違う!
――結果的に実話になっちゃった、みたいな?
ナオト:そうなんですよ。実話だったら、ちゃんと実話って言いますから(笑)。
ユウスケ:この曲は弾き語りからバンドがインして、また弾き語りに戻るっていう、わりといまのオレスパでよくやる展開を初めてやった曲だったんですよ。切り替わりがスゴいなって思いながら作ったのが印象に残ってますね。当時は新しかったし、いまもライブでやってて楽しいんです。
――年末の「アンメジャラブル」ツアーでは、この曲を歌うときに歌詞を引用して、「これからも卑屈な歌を歌っていくんだ」って言ってましたよね。
ユウスケ:たしかに言った。基本的にオレスパの曲は卑屈ですからね(笑)。
――「パープリン」は疾走感のあるギターロックです。ナオトくんのギターに中毒性がありますね。
ユウスケ:これはナオトのギターがめちゃくちゃかっこいい。
ゆっきー:たしか「敏感少女」のレコ―ディングのときに、「新曲あるんだ」って初めて聴かされた気がしますね。それがめっちゃ印象に残ってます。「お、いいじゃん、これ入れようよ」っていう話をした記憶があるんですよ。
ユウスケ:最初にシングルに入れるときは、「モザイク」か「パープリン」のどっちをリード曲にするか迷ったんですけど、「パープリン」だと意味がわからないから、「モザイク」になったのはよく覚えてます。「パープリン」っていうのは漫画のなかの造語なんです。
――頭がパーで脳がプリンっていう意味だとか。
ユウスケ:あ、そうです。
――歌詞は<ヒッキーんなってバイビー>って、失恋の未練の曲をぶちまけてますね。
ユウスケ:当時、何かがあったわけでもないんですよ(笑)。架空の主人公を書いているので。
ナオト:僕はこの曲には思い入れがありますね。ちょうどいまの事務所に入ったぐらいにできた曲で。ちょっと風向きが変わったね、ぐらいの頃の曲ですね。3年前ぐらいですけど。それで気合いが入って、ギターもかっこいいのかもしれないです(笑)。
――で、6曲目の「モザイク」は、『モザイク』のタイトルトラックでした。これは名曲ですね。それこそテンポチェンジが激しくて、ライブで育ててきた曲なんだろうなと思いますが。
ナオト:廃盤になった「モザイク」のほうにはテンポチェンジがないですからね。だいぶ変わってます。
ユウスケ::最初は初々しさしかなかったよね。シンプルな構成だったし。
――そういう楽曲のマイナーチェンジって、どんなふうに出来上がるんですか?
ユウスケ:ライブをやっていくうちに、こういうほうがいいねって変わっていって。あと、あれですね、ゆりとは走りグセがあるので。逆にそれに合わせて速くなっていったっていう。
ゆっきー:走りグセ、もたれグセがスゴいんですよ(笑)。
全員:あはははは!
ユウスケ:ゆりとに特化した曲ではあるよね。
ゆりと:僕次第?
ゆっきー:後半のテンポが遅くなったところも、ゆりとがスタジオで急にやりはじめたのにみんなが合わせたんですよ。だから、アレンジャーゆりとです(笑)。
ゆりと:スタジオに入ったときに、その場の空気感で試したら、ハマったんですよ。ナオトも(テンポに)ついてきてくれるので。それがバンドをやってて楽しい瞬間でもあるんです。
――レコーディングで楽曲は完成するんだけど、ライブでさらに上の完成を目指していくっていう。
ユウスケ:それがオレスパだとけっこうあるんですよね。だから、あんまりレコーディングで詰めすぎない、凝らないっていう感じではあるのかな。
――「モザイク」の作詞作曲はナオトくんですけど、作ったときのことは覚えていますか?
ナオト:これはけっこう時間をかけて作った曲ですね。僕は自分のことを書かないんですけど、「モザイク」に関しては、自分と当てはめたところがあって。実話じゃないですけど。僕のなかでは<ペヤング食って青のりをつけたまま>っていうのが、めちゃくちゃ気に入ってるパンチラインではありますね。あんまりこういうワードを使うバンドっていないと思うんですよ。
ユウスケ:この曲はナオトの性格のバイブルだと思う。ナオトの性格のまんまだなって。
ゆっきー:わかるわかる。ナオトが普段見てる風景というか、感じてることがそのまま出てる。
――誰かを傷つけることに自分も傷ついてしまうナイーブさを感じますね。
ユウスケ:ナオトって突き放すわけでもなく、だけど誰の味方にもならない感じがあるんですよね。そういうのが顕著に出てるなと思います。
――と言われて、ナオトくんはどう?
ナオト:本当にそのとおりだと思いますね、はい(笑)。
――では、今作の新曲についても話を聞かせてください。まずは「7997」。ドラマ『#居酒屋新幹線』のエンディングテーマへの書き下ろしでフォーキーな味わいの曲調ですね。
ナオト:フォーキーな感じは狙ってます。ゆるい雰囲気のドラマだったので。デモの段階だと、もっとフォーキーだったんですけど、キーを上げたり、テンポを速めたりして、いまのかたちになりました。電車が関係しているドラマのタイアップだったので、そこは意識してますね。タイアップの書き下ろしが初めてだったので、最初は完全にそっちに引っ張られちゃって難しかったんですけど。やっていくうちにオレスパっぽくなったと思います。
――ヒップホップっぽいアプローチを取り入れているのも新しいですね。
ユウスケ:ナオトの曲を聴いたときの印象でゆるい曲だなと思ったんですけど、そのまま終わるのが嫌でひとひねりほしくて。ヒップホップっぽさも狙ってますね。
――タイトルの「7997」というのは、切符に印字される整理番号みたいなやつ?
ナオト:そうですそうです。両想い切符ですね。
――頭と終わりの数字が一緒だと両想いになれるっていう。
ナオト:もともと途中まで歌詞は書いていたんですけど、この曲名ができてから全体を書いたんですよ。(ドラマの制作サイドから)人との出会いを歌詞にしてほしいっていうのがあって。ただ、特定の人のイメージにはしたくなかったんです。その人が誰なのかは想像できないけど、誰かのことを待っているっていう歌詞がいいなって。だから「僕」とか「君」っていうワードも使いたくなかったんです。ちょっとだけ入っちゃってますけどね(笑)。
――もうひとつの新曲「リルメラン」は韻を踏んだメロディがすごく耳に残るのと、終盤にかけて徐々に加速するような抑揚のあるアレンジにバンドの進化を感じました。
ユウスケ:男のロックって感じですね(笑)。本当はもっと勢いよく駆け抜けていくような感じにしたかったんですけど、「駆け抜けすぎじゃない?」ってメンバーに言われて。
ゆっきー:そんなことあったっけ?
ユウスケ:あったあった。<スピードを上げて>っていう歌詞があって、あそこはもっとスピード感がほしかったんですけど。メンバーとめっちゃ話して、あのかたちに落ち着いたんです
ゆっきー:「リルメラン」はアレンジャーの永澤(和真)さんと一緒にやれたのが大きかったですね。レコーディングの3日ぐらい前にデモが送られてきて、そこからメンバーでスタジオに入って、みたいな流れで。曲が仕上がるまでのスピードはいちばん速かったです。
――いままでメンバーだけで曲を作ってきましたけど、第三者のアプローチが加わった制作というのはいかがでしたか?
ユウスケ:僕らだけでは出せなかったアイディアもたくさん出してくださって、いままではやらないような演奏ができたと思います。ただ……初めてのことだったので、どこまで頼んでいいのかわからなかったですね。編曲と作曲の境目みたいなのが難しかったんですよね。頼りすぎてもいけないし、僕らだけのやり方で進めたら意味がないし。
――そこは初めてのことだから手探りではあったんですね。
ナオト:そうですね。永澤さんがアイディアを出してくれたフレーズもめちゃめちゃ入ってるし、いい意味でオレスパっぽくないというか、新しい感じになっているのかなと思いますね。
――タイトルの「リルメラン」は造語ですよね。
ユウスケ:リトルメランコリックの略語です。小っちゃい憂鬱というか。これはリクルートの「Follow Your Heart & Music Presented by RECRUIT」の書き下ろしで応援歌として作ったものなんです。ただ、あからさまに応援歌っぽいタイトルをつけたくなかったんですよ。
――これまでオレスパにはあんまり応援歌と言われる曲はなかったと思うんですけど、そういうテーマと向き合ってみていかがでしたか?
ユウスケ:すごく難しい要望でした。応援歌って言っても、いろいろなものがあるじゃないですか。そのなかでも、ストレートすぎず、皮肉すぎず、その間がいいなっていうのはあったんです。
――個人的には<ヤなユーウツの目は見ちゃいけない/絡まれればどこまでもついて来る>というフレーズが、オレスパらしい応援歌の温度感なんだろうなと思いました。
ユウスケ:そこはけっこう絞り出したところはありましたね(笑)。
ゆりと:僕、「リルメラン」の歌詞はすごくいいなと思うんですよ。<宇宙の角度で繋がった未来>とか、そういう未知なものが出てくるのが、ユウスケさんにしてはちょっと珍しいんですよね。
――わかります。最後に今回のアルバムのタイトルを「hodgepodge」にしたのは?
ナオト:これは「ごちゃまぜ」っていう意味ですね。新曲2曲と廃盤になった5曲がまざってるから、このタイトルがすごく合ってるよねってメンバーと話し合ったんです。
――まさに前身バンド時代から最新の曲までがごちゃまぜになった作品ではありますけど、それがひとつの作品に入ってても違和感がまったくないんですよね。
ユウスケ:僕も違和感がないんですよ。いちばん古い「急ショック」から「7977」「リルメラン」までは5年の差があるんですけど、それが1枚に収まるってすごいことですよね。
ゆりと:「キンモクセイ」だけじゃ想像できない一面も入ってるので、ルーツはここですよっていうのを知ってもらいたいです。
ゆっきー:オレスパだから作れたアルバムだと思います。なんだかんだバンドをしっかりやってきたから、昔の曲もちゃんと聴かせられる。いままでのやり方が間違ってなかったなって。
――ええ、1曲1曲が全部つながっていまのオレスパあるわけですよね。
ナオト:これからまだ僕たちは何年もバンドをやっていくと思うので。その途中にある1枚として、僕らのこれまでといまをわかりやすく伝えられる作品になったのかなと思いますね。